輸入差止めをした権利者を訴えるのは筋が違う

海外から商品を輸入しようとしたところ、税関で特許権侵害を理由として通関できず、商品の破棄や商品を販売できなかったことにより生じた損害を賠償しろ、という訴えが大阪地裁に起こされた.


この事件はツッコミどころが多いので感想を書いてみる.


無効理由があるにも関わらず輸入差止めの申立てをしたこと.


出願発明が特許されるためには特許庁審査官による審査を受けなければならない.

審査の結果、拒絶理由がないと判断されれば特許になる.

しかし、特許審査は限られた条件で行われるから、すべての特許発明は潔白ということではない.

そのために、異議の申立てや無効審判という審査の見直しの制度が用意されているわけである.

全ての特許発明は、潜在的に無効理由を含んでいることは、制度上、仕方がないことなのである.

そして権利行使をするにあたり、特許審査を受けているにも関わらず、加えて無効理由がないことを担保しなければならない、という制度設計はありえない.


税関の輸入差止め制度についても、申立て審査の段階で、利害関係者が申立てを阻止する機会が提供されていて、申立ての段階で申立ての受理を阻止することはできたにも関わらず、原告輸入者はそれを行っていない.


もっとも申立て審査で、原告輸入者が、利害関係者として必ず申立て審査に参加できるといううわけでもないから、申立て審査の段階で意見を主張しないことが必ずしも不作為であるというわけではない.


しかし、認定手続きでは、原告輸入者は、通関を成功させる手続きがあったにも関わらず、sおれを行わなかったのだから、輸入者の手続きが不十分だったことな否めない.

認定手続きで何をしていたのかは不明だが、無効理由があることを主張していれば、認定手続きで考慮されていたはずであるから、この段階で輸入者が無効理由の主張をしなかったのは頂けない.


そして、なぜ通関開放を申立てなかったのか.

税関の輸入差止めは司法判断と違って短時間で侵害判断を強いられる制度であるから、司法と違って十分な主張立証の機会が与えられるわけではない.

そのために用意されている制度が通関開放であり、輸入者は通関開放を申立て貨物を輸入することができるのである.

貨物を輸入できなかったことによる損害は大きく、この事件でも、認定手続き中の保税倉庫費用、貨物の廃棄処分費用に加え、商品販売ができなかったことにより売上が立たなかった逸失利益を含めて、約3800万円の損害が発生している.


今回の訴えに至る前に、輸入者には損害を回避する機会があったわけで、それをして来なかったということであれば残念である.


最後になぜ権利者を訴えたのか.

無効理由があるにも関わらず輸入差止めをしたことで貨物が輸入できなかった場合に、差止めの申立て者である権利者を訴える以外にも、差止めの執行者である税関長を訴えるという方法もあったはず.


タラレバの話しではあるが、認定手続きで無効理由の存在を主張したにも関わらず、輸入できなかったという事情であれば、認定手続きの違法性を主張することもできたはず.


もし、裁判所が無効理由の存在を認めた場合、権利者の差止め申立てに過失があったと判断しただろうか、という点も興味深いが、無効理由の主張を認定手続きでどのように処理したのか、その結果として侵害と判断したことに違法性はないのか、という点も非常に気になる.


認定手続きでは、専門委員による多数決に基づいて税関が判断するという仕組みである.

あくまでも専門委員による多数決に基づく、というだけで、多数決の結果を直接に反映させずに、税関が物言いをしてもよく、税関の裁量で、どのような結果も出せるのである.


輸入差止め制度については、弁護士からの異議も多く、いまのままの制度でこの先もいいのかという問題もある.

今回の事件は輸入差止めについての司法判断を得るいい機会だったことが悔やまれる.